2015年8月5日(水)、第13回教師学事例研究会が、金沢工業大学大学院東京虎ノ門キャンパス(東京都港区)で開催された。全国各地から教師、学生、保護者など約70名が参加し、教育現場での実践事例の発表などが行われた。また、希望者には参加の証明書が発行された。(主催:親業訓練協会/教師学研究会)
教育とコミュニケーション力(りょく)
なぜ、今「教師学」なのか
〜現場はとても大変 それでも教師学を知っていれば〜
今年のプログラムは、1.基調講演、2.ミニレクチャー、3.グループセッション、4.全体シェアリングという構成であった。まず、午前中に基調講演、続いて教師学ミニレクチャーが行われた。
午後のグループセッションでは、参加者がそれぞれ興味のあるテーマ3つを選び、1時間×3回のグループセッションに参加した。
どのグループも、発表者を囲んで熱心な意見交換が行われた。
最後は全体でのシェアリングで、一日を振り返った。
【基調講演】
学習評価研究所代表理事 五十嵐正樹氏による、基調講演「なぜ、今『教師学』なのか」では、中高生の学力の国際比較、意識調査などから見えてくる日本の教育の課題が、現代教育キーワードの説明と国際比較データを基に、大変分かりやすく解説された。
今後、国が目指す教育改革の波は現場へと押し寄せ、今でも世界一忙しい日本の教師は、更に厳しい状況に追い込まれかねない。そこで教師を支え、力になるのは「コミュニケーション力」。教師が自信を持って学級運営や教科指導にあたり、また保護者や生徒、先生同士とのより良いコミュニケーションを続けていくためには新しいやり方が必要であり、今こそ現場では教師学が必要とされているのだという、力強いお話であった。
【ミニレクチャー】
教師学インストラクター園元恭子氏によるミニレクチャーでは、教師学で実際に何を学ぶのかを、二人ひと組になってのロールプレイなどで大変分かりやすく、楽しく体験することができた。
教師が生徒との信頼関係を高めることが、学習の質を高めることにも繋がる。そのためには教師と生徒との相互理解が必要であることから「いつ聞くか」「いつ話すか」そのタイミングをしっかりと理解し、実践することが重要だと実感できたレクチャーであった。
【グループセッション】
下記の9つの中から関心の高いテーマに集い、発表者を中心に意見や情報の交換をした。
(参加者は計3つのテーマに参加が可能でした)
グループセッション発表者
【各グループセッション内容紹介】
A. 幼児期の子どもを持つ保護者の不安を聞く
私立幼稚園園長 渡邊 智恵子
自分は、母親と2代続いての親業訓練インストラクターである。「親業」と「教師学」は、自分の子育てと教師人生において、かかせないものとなった。
昨今は、保護者からのクレーム対応も多いが、「教師学」のスキルを使って話をすることで解決できる場合や事態を変えられることもあると実感している。
その取り組みと事例の紹介。
B. 心の停滞が動き出す関わり方
元公立小学校教諭 飯田 伸・近藤 純子
教育現場で子どもたちは足並みを揃えて進まないこともあるが、子どもを急かすのでなく、子どもの心に触れることで気持ちを満たし、子どもの変容を見守ることのできた事例を紹介。
また、「教師学」のスキルを教育現場で実践することで、発達障害系ではないかと思われる子どもたちとの間でトラブルを減らせる効果が沢山あったことの報告。
C. 教師学の活用法と実践事例の学び合い
―こうして現場での実践力がつけられる―
私立中学校・高等学校教諭 東京私学・教師学の会
日頃は、教師学一般講座を修了した現役教諭の集まりとして活動しており、教育現場で実際に起きた出来事に対して、「教師学」の視点でどんなアプローチができるのかをメンバーで一緒に検討している。そんな実際の事例を紹介しながら、参加者とディスカッションやロールプレイを実施した。
D. 生徒指導で得られなかったもの
―わたしメッセージが動かしたこころ―
元私立高等学校養護教諭 鳴戸 真奈美
養護教諭は生徒指導や生活指導には直接タッチすることがない。しかし、生徒指導を受けて悔しい思いをした生徒に対してのフォローや、嬉しいことがあった生徒に対する声のかけ方、また、同僚の先生に対しての接し方など、様々な場面で「教師学」のスキルを使用し、成果をおさめた事例を報告。
E. 公立中学校の相談室での事例から
―生徒・保護者をどうサポートするか―
公立中学校相談員 遠藤 和子
公立中学校の相談員として、不登校、いじめ、人間関係のトラブルなど悩みを抱えた保護者と関わっている。
話をしていると、苦しい思いをただ聞いてほしい場合や、誰か分かってくれる人がいると心が楽になることが多いようである。そこで、「教師学」をベースに何を言っても安心していられる場所を提供し、その人自身がだんだん気持ちを落ち着けて自ら進んでいけるようなサポートをしている。
F. 指導員としての意欲を高めた教師学の実践
学童保育指導員 駒崎 晴世
学童保育指導員として働く上で、多くの子どもたちとの関わりに焦点を当てた「教師学」が支えとなっている。学童保育は、学校と家庭をつなぐ場である。その場が心地良いものなら、子どもたちは家庭でよりリラックスでき、学校でも意欲的に取り組んでいくことにつながると感じている。学童保育指導員としても意欲や喜びを高められる「教師学」の実践事例についてイラストを交えながら、紹介した。
G. おけいこ教室の現場から
―生徒と講師、保護者と講師、生徒同士のより良い関係づくりを考える―
英語教室講師 小杉 優子・北村 文子
「教師学」を学ぶことで、生徒や保護者との関係が良好に大きく変わっていく確かな手ごたえを得ている。生徒と講師、保護者と講師、生徒同士の人間関係作りに「教師学」のアプローチを使って対応した事例を紹介。また、参加者の方からの事例もグループでシェアしあい、お互いの学びを深めた。
H. 「自ら考える」子どもが育つ
―中学受験予備校の現場から―
中学受験予備校職員 川越 亜希子・大西 直美
中学受験を目指す小学生対象の塾に勤務しているが、自分が授業をするのではなく、学習アドバイザーという形で子どもたちや保護者と関わっている。塾では、学習面での相談だけでなく、友だちとのトラブルや親子ゲンカなどの相談も多く、その場合、「教師学」の手法が大きな助けになっている。その実践事例を紹介。
I. 保護者対応にいかす教師学
大学教員・元公立中学校教諭 金本 佐紀子
長年に渡り公立中学校に勤務したのち、現在は大学教職課程の一部を教えている。
学校の現場には、子どもと地域、保護者、学校が関わっているが、子どもをめぐって本来ならばお互いが助け合っていくべき場所であるはずなのに、何故か敵対してしまうこともありがちである。
「保護者も不完全燃焼の思いを抱え、教師も忙しいので…」というボタンのかけ違いが起こることだってあるだろう。
そうなると、本来の教育の効果を上げられない。そこに着目し、保護者対応に教師学がどのようにいかせるかを一緒に考えた。アンケート結果や、実際の事例を紹介。
グループセッションでは、その場で発表者と参加者との意見交換も盛んに行われた。
【全体シェアリング】
全員で大きな輪を作り、一日過ごした感想などを分かち合い、教育現場での「教師学」の必要性をお互いに再認識した。
◎事例研究会に初めて参加された方の感想の一部をご紹介します。
いろいろな視野からの意見を聞けて嬉しかった。職員間でのコミュニケーションにも使いたい。
教師学を知っていたら、今までの保護者対応の場面でもっとスムーズに話が進んだのではないかと感じた。
もともと、子どもたちのために私たちがいる。「子どもたちのために私たちは何ができるのか、どんなことができるのか、どんな方法があるのか」について、教師学はそれが明確だと感じた。
子どもに対する立場がそれぞれ違っていても、様々な場面で教師学を使って対応されていることがわかって嬉しかった。
沢山の実践事例を聞いて、安心した。
これから、まだ沢山学ぶことがあると思えたことが嬉しい。
自分の指導を振り返ることができた。
「その時、その時で相手と自分を大切にするんだ」という原点に立ち戻ることができた。
最後に教師学事例研究会の野利雄実行委員長より、「それぞれの皆さまが自分なりに実践されたことをしっかり見つめ、大事にすることに意味があり、そのことが、自分が生きていき、相手も生きていくことに繋がる…。そんな『人間としての歩み』に立って、ゴードンメソッドを広めたり、今後の教師学事例研究会をやっていければ良いと思っている」と閉会の辞を述べ、盛会の裡に幕を閉じた。