教育とコミュニケーション力(りょく)
― ゴードン博士の教師学 ―
2018年8月1日(水)、第16回教師学事例研究会が、金沢工業大学大学院東京虎ノ門キャンパスで開催されました。全国各地から、教師・幼稚園教諭・保育士・保護者・大学生等、立場の違う方々が一堂に会し、教育現場での実践事例の発表やグループ討議が行われました。
今年のテーマは、「教師・保護者・子どもがつながって成長していく」
教師学事例研究会の野利雄実行委員長による開会の言葉に続き、
という構成で進行しました。
*事例発表*
「Joined to Them から Be with Them」の発見
〜出会いの中で「わたし」を生きる〜
東京都 私立中学高等学校教諭
井田 恵理子氏
「教師学一般講座」を受講してちょうど1年が経過した井田さん。受講のきっかけは、「先生は優しいけれど何を考えているよくわからなかった」という生徒の卒業時の一言だったそうです。それまでの井田さんは「教師は生徒を受容すべきだ」と考えていて、非受容なことがあってもそのことを生徒に伝えることができず、悩んでいたそうです。そんなときに「教師学」と出会います。学んだ成果はすぐに出たそうです。
教師学を学ぶ前はいつも生徒の問題に自分が巻き込まれる(Be Joined)だったけれど、受講後は自分自身の人生を生きながら、問題を抱える生徒に寄り添う(Be With)の姿勢へと変化してきたとのこと。
事例からはその過程と手応えがよく伝わってきて来ました。
「園運営に活かすゴードンメソッド」
〜10年後20年後自立心を身に付けリーダーシップを発揮できる人材を育む〜
東京都 私立幼稚園園長
渡邊 智恵子氏
幼児教育に携わり30年の渡邊さん。若い頃ゴードンメソッドに出会い学んだことが、現在の園運営の基盤となっていると語ってくれました。幼稚園の教育指導要領が変更となる中、渡邊さんの園ではルーブリック(評価指標)を「10年後20年後自立心を身に付け、リーダーシップを発揮できる人材を育む」と定め、そのための手法としてゴードンメソッドを位置づけているそうです。現在は職員の98%がゴードンメソッドを学んでいるとのこと。この数字に参加者一同びっくりです。ほぼ全員がゴードンメソッドを学んでいると次のようなことが可能になるのだそうです。
「ゴードンメソッドは職員全員が手にしている、なくてはならない身体に馴染んだ道具である」という言葉通りの実践発表でした。
「教師と生徒が自己表現するとクラスが活性化する」
〜卒業前の第3法実践報告〜
兵庫県 県立高等学校教諭
村尾 奈緒子氏
昨年の暮に初めて教師学を受講した村尾さん。当時は高校3年生の担任。教師学を受講直後、ご自身が課題だと感じていた生徒の3学期の過ごし方について、「第三法を実践します」と受講生の前で宣言したそうです。高校3年生の12月と1月は生徒の進路決定組と未決定組との間で軋轢が生じやすく、クラス経営が難しいと感じていたからだそうです。
具体的には受験勉強のために学校を休む生徒が出てきたり、進路が決まった生徒は友達と会うことが登校の目的なので授業に身が入らなかったり・・・。3年間持ち上がりのこのクラスはまとまりもよく学校行事にも積極的で成果もあげていたので、この軋轢を残したまま卒業させたくないと考え、第三法を実践することを決意したそうです。
3学期の始業式の日に「生徒も教師も納得がいく解決策を一緒に見つけたい」というわたしメッセージを伝え、その後アンケート形式で生徒の要望をききました。予想した以上に全体のことを考えて意見を述べている生徒が多いこと。また、進路決定組、未決定組どちらの生徒にも不安があること。教師のことも考えてくれている意見などに驚かされたそうです。
自身の欲求も合わせ、みんなが納得する案は「教師が本来やるべき授業と生徒自身が必要な勉強を授業時間の半分ずつ行う」に決定したそうです。
このように、両者が納得できる勝負なし方を採用したというプロセスが、丁寧に語られました。生徒は自分たちが決めた解決策には積極的に取り組んだそうです。
生徒を信じて生徒の声に耳を傾けた今、ご自身にとって教師学とは・・・
(1)生徒との関係をよくしていくためのツール
(2)教師も生徒も大切だという視点があるもの
(3)人間関係の質が教育効果を高めてくれるもの
(4)決して難しいことではないもの
であり、日々手応えを感じているとまとめられました。
*全体シェアリング*
最後に全員で大きな輪を作り、一日の感想などを分かち合いました。その一部をご紹介します。
能動的な聞き方は相手が主人公となる聞き方だとうことを再確認しました。
子どもを信じて尊重することの大切さとすばらしさを実感しました。
教師は組織の中で活動しなければならないが、そんなとき何を大事にする自分かを見つめていきたい。
心穏やかに話が聞けるようトレーニングしていきたい。
生徒には伝えられるけれど自分の子どもには難しいときもある。やはり親としては巻き込まれているのかもと振り返った。
宮城県には教師学インストラクターがいないので講座が開かれていない。多くの県で教師学講座が開講されるとよい。
また、初めての参加者からは
自分は教員を目指しているので現場の先生方の話が聞けてよかったし、自分が尊敬している先生は私を尊重し話を聞いてくれる先生であったことを思い出した。
生徒の主体的な学びを推進したいと思っているが、なかなか上手くいかず試行錯誤の毎日である。今日三人の先生方の実践を聞き、クループのみなさんお話を聞き、元気づけられた。
*参加者アンケートより*
参加者のみなさんの声の一部を紹介します。
相手を尊重することの大切さを、改めて強く感じました。頑張っていらっしゃる方々のお話を聞くと、自分もゴードンメソッドを使っていこうと思えます。(保育士)
「誰の問題なのか」を考え、それに合わせて対応するという流れが、実践事例発表やグループでのディスカッションによって見えてきた気がしました。(小学校教員)
実践事例の内容を聞くことで、自分の立場や職場での状況と重ね合わせ、参考になる点や発見することが多くありました。教師学で学んだ内容を忘れて対応してしまうことがあるので、自分を振り返る良い機会となりました。(中学校教員)
人間は、自分に関わることを自己決定することで自尊心や責任感を育むのだと思いました。実践事例の発表は、どれも気持ち良く、尊重された生徒の心になって聴きました。(中学校教員)
教師学で学んだことを今後に活かすためにも、こうした事例研究会が大切であると改めて思いました。(高等学校教員)
誰が困っているのか等、すぐに実践できることが多々ありました。生徒との関係を築いていく中で、また生徒の成長を手助けできる立場として、今後も教師学を学んでいきたいと思います。(高等学校教員)
教師学を様々な現場で、様々な場合に対応できるように、毎日の過ごし方や工夫探しをしていることが本当に素敵でした。(大学生)
教師の方が、日々生徒・保護者に関わり、考えているのだと感じました。感謝します。(主婦)
今回は初めての参加者が増え、教師学の広まりを実感できる会となりました。特に2人の発表者は教師学を学んでから数ヶ月間での実践発表でした。このように教師学が本物であることが実証されています。教師学を手にして、教師・保護者・子どもがつながることにより教育の質はより高まるのです。それゆえ、教師学の原理原則を大切にしつつ、各自の置かれた環境の中で恐れずに実践することが大切であると全員で確認し合い、来年の再会を約して今年の事例研究会は盛会裏に幕を閉じました。